これまで書いたように、自分はリズムやグルーヴ、言葉においてのフロウづくりを個人テーマとしてずっとこねくり回してきていたから、ヒップホップとは全然関係ないところの人間だけど音楽としては何かしらやれるだろうと直感できた。ある意味、ここで初めて俺はプレイヤー(ボーカリスト)としての立場で音楽に関わる経験をしている。自分がそれまで格闘してきたことは、大げさな言い方をすると、自分の実存と切り離せないようないびつ且つ不条理な何かで、どこに辿り着くのかもわからない獣道そのもの(a.k.a 人生)だったが、この作品に関しては、目の前の音楽に対して自分が何をやれるのか、というシンプルな問いに最大限応える、そういった風通しのいいマインドで臨むべきものだった。
楽器弾いたりトラックメイクにも少しは関わっているけど、ほぼボーカルに集中するような環境で制作は進み、実際やってみるとこれはとても奥が深いもので、歌でグルーヴや展開を作ること、発声やタイミングをどうコントロールするかという繊細な領域に思い至るのは、この時の経験があったことが大きい。もっというと、近くでSTUTSのトラックメイクを見ていてDAWってこう使うんかーというのも多少学びになった気がする(まぁ編集早すぎて何やってるかほとんどわかんなかったし、参考程度だけど...)。
リリース時の取材で「なぜ二人でやろうと思ったんですか?」っていう質問を毎度のようにされて、そりゃあまぁ、人気ラッパーたちとも親交深く当時明らかグイグイきてるHIPHOPプロデューサーが、なんでこんなどこからきたのかもよくわからんボンクラと...ってなるのは当然だったと思う。しかもその質問に対して二人雁首そろえて「グルーヴがあうから」としか毎回答えてなくてヤバかったが、でもそれは本当のことではあって、グルーヴとかスイングの振り子の幅の感覚ってそんなに誰とでもバチっとあうものじゃないから、それだけで自分にとっては一緒にやる大きな理由になっていた。向こうからも今でも折りに触れて誘ってくれるのは、やっぱりはっきり音楽が理由だと思うし。
それでも、おそらくこれは二人とも、ABS+STUTSというものをパーマネントなユニットにしたりするつもりは最初からなかったはずで、STUTSは明らかにヒップホップの人でヒップホップをやることに軸足があったが、俺はそれは全然違っていて、やがてそれぞれの持ち場に帰ることはなんとなく約束されていた。そうして俺はまた、暗い森の道なき道へとのそのそ戻っていった。
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